仲間になる前の出逢い
聖都ウェンデルを目指すフォルセナの傭兵デュラン。
彼が城塞都市ジャドの道具屋に立ち寄った時、あるものが目に入った。
(ラビの…尻尾?)
街の外で遭遇してもあまり危険ではないモンスターのラビ。そんなラビの尻尾のようなものが、自分が眺めている棚の隙間から見える。
何故こんなところに…見間違いかもしれないが、確かめるために棚の反対側に回り込んだ。
(……あれ?子供…ってほどでもないか、筋肉すごいし………)
ラビの尻尾かと思った物は、道具屋の窓際にいた少年が被っている帽子だった。
少年はしゃがんでいるので分かりにくいが、背格好から見るにデュランより少し年下くらいだろう。デュランに比べると小柄だが、俗にいう痩せマッチョなのか明らかに普通の少年よりも筋肉質だ。
(なんか強そうだな…けど窓に張り付いて何してんだ?)
何やら神妙な顔でこそこそと窓の外を見ている。険しい表情ともとれるそれはやや大人びていて、さらに少年の年齢をわからなくさせた。
「うっ!?」
「あ…ごめん、びっくりさせちまったか」
まじまじと見ていたデュランに気付いた少年が声をあげた。
「あぅ……た、たのむ、オイラが、ここにいること、誰にも…言わないで…」
「?」
怯えているとまではいかないがしどろもどろに話す少年に、自分はよっぽど怖い顔でジロジロ見てしまっていたのかと一瞬考えたがそうではなかった。
「オ……オイラも、獣人だけど…今、他の獣人達に、見つかるわけにいかない…」
(…そういや街で偉そうにしてる獣人に、服装とか似てるな)
デュラン達が今いる街、ジャドは獣人達に占領されている。
だが少年は訳ありのようで…人間に獣人だとバレることも、他の獣人に見つかることも恐れているようだ。
自分はその気がなくとも、獣人を恨んでいるであろう人間と接するのは苦痛だろう……そもそもデュランは少年が獣人だと気づいていなかったが。
「たのんだよ!」
おどおどしながら懇願する様子が、やっぱり無理をしている子供に見えて…なんだかいたたまれなくなったデュランは空気を変えるように笑って応えた。
「ははっ、悪い悪い…。オレはおまえの帽子がさ、ラビの尻尾みてぇだなーって見てただけなんだ」
「え…?オイラの、これ?」
「ああ、そのピンクのぽんぽん……だから別に、おまえのことを誰かに言いふらしたりしねえから心配すんな。他の獣人にも、人間にもな」
「う、うん」
「あと、獣人に見付かりたくないなら夜にこっそり動くといい」
「夜?」
デュランは酒場で得た情報を少年にも教えた …獣人が占領しているジャドから出る方法を。
「っつう訳で、オレはもう少し街を回ったら宿屋で休んで夜に脱出するぜ」
「…そ、そう……あの…夜は、気性が荒くなるやつも多い、気を付けて…」
「おう、おまえも気を付けろよ…じゃあな!」
「…………人間、変わったやつも、いる…のか」
道具屋を出ていくデュランを目で追いながら呟き、少年は少しだけ安心して窓の外に視線を戻した。
…お互い名乗るのは、また後日だった。