『お兄ちゃん、優勝おめでとう!』
(……ウェンディ?)
眠っているデュランに聴こえてきたのは、妹ウェンディの声……故郷のフォルセナを出てからまだ数日しか経っていないのに懐かしく感じる。
『お兄ちゃん?お兄ちゃんってば!』
返事をしてやりたいがおぼろげな意識では声を発せられず、どうすることもできない。
『お兄ちゃんの弱虫!お兄ちゃんなんかだいっきらい!』
(これって…あの時の……?)
紅蓮の魔導士に破れ、自暴自棄になっていた自分にウェンディが涙目で放った言葉だ。
デュランが恐る恐る目を開けると、周りは真っ暗闇…すぐそこで小さな背中が震えていた。
(ああ、また………泣かしちまった)
自分は強くなるために旅立ったが…これでは何も変わらないではないか。
(何してんだよ、オレは……父さんと約束したのに)
父に代わり家族を護るという約束。しかしデュランは旅立つ前日、妹を泣かせてしまった上に声も掛けずにフォルセナを出たのだ。
(ごめんな、ウェンディ…泣く、な…)
そう言おうとしても声が出せない……デュランはせめて、と思いウェンディの頭に手を伸ばした。
『!』
そして頭を撫でようとすると驚いたウェンディが振り向く……だが振り向いたその子はウェンディではなかった。