第35話『導きの末に漂流』



ーザァァ…………チチチッ!


「…………う、……ん…?」



『デュラン!気が付いた?』


「フェア………リー?」





穏やかな波の音や鳥の鳴き声を聴いて意識を浮上させたデュラン。


目を開けると心配そうな顔をしたフェアリーがフワフワ飛びながらこちらを見ていたのだが……いつものフェアリーと違った。


『どうしたの??』


「なんかおまえ……でかくねぇか?」


フェアリーは確か自分の両手におさまるくらいのサイズだったはずだが…今目の前にいるフェアリーは普通の人間サイズのような気がする。


『…違うわよ。私が大きくなったんじゃなくて、あなたが小さくなってるの!ほら後を見て』


「うしろ?…おわぁっ!!シャルロット!??」



前には大きく見えるフェアリー、後にはさらに大きいシャルロットが眠っていた……これは確かにデュランが小さくなっているらしい。



よく見れば、シャルロットは小さいデュランを抱きかかえながら木に寄りかかって寝ている。



「…いったい何があったんだ?」


『覚えてない?幽霊船から脱出して、この島……火山島ブッカに流れ着いたの』




そう言われ記憶が鮮明になってくる。


ひたすら夜の海を泳いでいたが……精霊の力なのかただ溺れただけなのか、何かの拍子で気を失い…火山島ブッカの砂浜で目を覚ました一行。


しかし火山が不穏な雰囲気で……噴火する前に島から出なければと、ジャングルのような島の中を進んでいた。


「えっとそれで、モンスターと戦ったりしながら探索して…」


『戦ってる最中にあなたがコカトバードの攻撃で石化したのよ』


「えぇっ??それは覚えてない…」


『石化攻撃を思いっきりくらって、ほぼ一瞬だったからね。そのコカトバードはシャルロットがじゃんぷで叩き落としてやっつけたわ』


シャルロットはホークアイに貰った大地の腕輪を装備していて…それには石化を防ぐ力が宿っているため、コカバードを難なく倒せたようだ。


「ちょっと待て、受けたのは石化なのになんで『ちびっこ』になってるんだ?」


『プイプイ草が無くて、シャルロットの魔力も切れちゃったから…いちかばちかで『ちびっこハンマー』を使ったのよ』



プイプイ草をすりつぶして振りかければ石化状態は解ける。

だが今はプイプイ草の持ち合わせが無いうえ状態異常を治す魔法ティンクルレインも使用できない……そこで試したのがちびっこハンマーだった。




『すでに別の状態異常になっている対象に重ねて使えば、ちびっこのほうが優先されるかもしれないってね♪』


「それで石化が解けてちびっこになった訳か…」


『解けたと同時にあなたは眠っちゃったんだけどね』



呪われて幽体にされたと思ったら大荷物を背負って海を泳ぎ…流れ着いた先では石にされ……デュラン自身が思っているよりだいぶ疲れていたらしい。


「だけどそれなら、もう一度ちびっこハンマーで叩いて元に戻してくれても…」


『元の大きさに戻った重たいデュランを、いったい誰が運ぶの?』



まずシャルロットやフェアリーには無理だ。

ケヴィンなら可能だが…その場合モンスターに遭遇した時の対処を魔力が切れているシャルロットが行うことになる。


つまり話し合いの結果、デュランはちびっこ状態のままシャルロットが運び…ケヴィンが護衛する形で進んだのだ。




「…幽霊船の時といい迷惑かけっぱなしだな、オレ」


『迷惑じゃなくて助け合いでしょ!仲間なんだから……それにシャルロットが、どうしても小さくなったデュランを抱っこしたいって』


「なんだその犬や猫みたいな扱い」



漁港パロを出る前、ニキータをもふもふしたいと言っていたのを思い出す…この状態の自分はシャルロットにとってペットみたいなものか。



『今は安全そうなところを見つけたから休憩中だったの。ケヴィンは念のため周りの様子を確かめに行ってるわ……ちびっこハンマーはシャルロットが持ってるんだけど』


「お、おぉ…」




シャルロットを起こさねばならないのは可哀想だが、自分も元に戻らなくては……元に戻ったら自分がおぶって行くくらいしたほうがいいかもしれない。


そう思い直して振り返りシャルロットに声をかけようとすると、デュランを抱きしめている腕に少し力が込められ小さな寝言が聴こえた。



「ヒー…ス……」


「…………………」


『…起こさないの?』


「起こせねえだろ………あんな幸せそうな顔して寝てるのに」



ブッカの暖かい気候が気持ちよく、寝心地のよさもあり良い夢をみているのだとしたら余計に起こしたくない……と思った瞬間、シャルロットの腕の力が先程の倍以上に強くなった。

「うぐっ!!?な……お、おい…」

「うへへぇ、ヒース…ぬいぐるみありがとでち」

「ぬ、いっ?!!」



シャルロットはデレデレとした笑顔でデュランをぎゅうぎゅうと抱き……もはや締め付けている。



(シャルロットォォ!!オレのことペットどころかぬいぐるみ扱いしてやがるな!!?)


『うーん完全に寝ぼけてるわね…』


(フェ、フェアリー!今すぐシャルロット起こせっ!プイプイ草で!頼む!!)


『だからプイプイ草は無いんだってば!』


「みんな!!あっちに村あったぞ~!あれ?なんか楽しそう、オイラ邪魔しないほうがいい?」


「ケヴィっ!…むしろ、邪魔してくれ、苦しぃぃぃ…」


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