風の精霊を仲間にできた事を英雄王に報告するためフォルセナへ向かう一行。
ちょうど漁港パロから、港がある商業都市バイゼルまで無料で乗れる船が出ていたので乗り込んだのはいいが……。
(…いつになったらバイゼルに着くんだ?)
剣の手入れはローラント城を出る前に済ませていたので、ケヴィンのグローブやシャルロットのフレイルの手入れもしてみたり……最終的にすることがなくて早々に寝てみたが本来の到着時間を過ぎてもいまだ船は動いていた。
もはや眠気も醒めたデュランはただ目を開けて天井を眺めている。
「ねえ、デュランしゃん」
真ん中のベットで寝ているケヴィンを挟んで反対側のベットに寝ていたシャルロットがもそもそと起き上がりこちらにやってきた。
デュランも起き上がって自分のベットに腰掛ける形に体勢を変え、シャルロットのほうへ向く。
「なんだ?トイレか?」
「ちーがうでちよ!」
怖くてトイレに行けないからついてきてほしいのかと……幼い頃一緒の部屋で寝ていた妹を思い出して言ってしまったが違うらしい。
デュランは小さく笑いながら、むすっとしたシャルロットの頭をいつものようにくしゃくしゃ撫でてなだめる。
「悪い悪い、どうかしたのか?」
「このふねおかしいでち!」
「え…?」
「くうきとか、イヤなかんじするでち!」
「空気だけじゃない。イヤな匂いもする」
どうやら二人と同じく起きていた様子のケヴィンもベットから降りてきて眉を潜めている。
「それに……音も…」
「音?「おと?」」
ーギャアアアアアアア!!!!!
「「「!!?」」」
デュランとシャルロットが耳をすまそうとしたとたん、部屋の外からこの世のものとは思えない不気味な奇声が聴こえた。
「いい、いまのききまちたか!!?へやのそとになんかいるでち!!」
「デュラン!!この船降りようっ!今すぐ!!」
「お、おいおい…」
シャルロットもケヴィンも床に膝をついた状態でデュランの足にしがみついて怯えだしたので、今度は両手で二人分の頭をくしゃくしゃしておく。
「……わかったよ、オレが見てくるから二人はここで待ってろ」
「うわーん!!イヤでちイヤでちぃぃ!!!」
「置いてかないでっ!オイラ達も行く!!」
「おまえらなぁ…」
部屋の外は怖いが、だからと言って二人だけで待つのも怖いらしい。
『シャルロットはわかるけどケヴィンはちょっと意外だわ』
「フェ、フェアリー……オイラがいたところも暗い…でも森の動物がたくさんいる、だから怖くなかった」
『確かに自然の森の暗さとは違うものね…ならデュランがしっかりしないと!』
実はデュランも怖くない訳ではない……しかし目の前の年下二人がこうもパニックになっていると自分は少し冷静になれる。
「あー……じゃあ三人で行くぞ?念のため武器も…いや、ちゃんと普段の装備をしていこう。フェアリー、シャルロットの着替えを手伝ってやってくれ」
『はーい!』
恐怖で気にする余裕も無さそうだが…フェアリーにシーツを渡し、仕切り代わりになるように持ったまま飛び続けてもらった。
「ほらケヴィンはこっちで………慌てるなって、裏返しだぞソレ」
「アぅぅ…」