漁港パロは最初に訪れたときとはだいぶ雰囲気が変わっていた。
正気ではないナバール兵が去ったことで、活気を取り戻していて何も問題は無さそうに見えたが…。
(旅の途中どころか、こんな早く会うとは…)
街の人間に取り囲まれているネコ族を見つけ、助けに入ろうとしたデュラン達よりも先にホークアイが現れて頭を下げたのだ。
ネコ族は『ニキータ』という名前で、ホークアイの弟分らしい。
一行はひとまず宿屋に入り、疲れていたニキータにシャルロットがヒールライトをかけ……これまでの経緯を聞いてひといきついた。
「アニキぃ…これからどうすれば…」
「おまえはローラント城にかくまってもらうといい。ナバールの者と言ってもネコ族だし、きちんと話せばわかってもらえるさ」
「何も悪いことしてないのに、かわいそう…」
ケヴィンは悲しそうにニキータを見つめ……その隣のシャルロットも同じような表情だが、どこかそわそわしている。
「ホークアイはどうするんだ?当てがないならオレ達と一緒に行くか?」
「…俺はジェシカの呪いの首輪を外す方法を見つけたいんだ。マナストーンを探す急ぎの旅をしているキミ達に迷惑はかけられない」
でも気持ちはありがたいよ、とホークアイは控え目に笑ってニキータとともに宿を出ようとしたが…すかさずシャルロットが立ち上がる。
「ホークアイしゃんまって!おねがいがあるでち!」
「お願い?」
ホークアイが振り返ると、期待に満ちた顔で見上げているシャルロットと目が合った。
「バイバイの前に……そのネコさん!もふもふしたいでち!」
「なっ!?」
「「え?」」
「………にゃぅ?」
悲しそうな表情からうって変わって狼狽えるようなケヴィンに、すっとんきょうな声をハモらせたデュランとホークアイ……ニキータは訳がわからず素で鳴いた。
「あんまりかわいいでちから、もふもふしたくて…」
「ア、アニキ!もふもふって…??」
「あっはは!大きい猫みたいなおまえを、触ったり撫でたりしたいんだってさ…」
「なぁう!?そう言われましても…これでもオイラ、いい大人だにゃ!」
「シャルロットっ!ニキータ困ってるから…もふもふはオイラ!オイラで我慢して!」
「ケヴィン、おまえシャルロットにもふもふされるの恥ずかしいって言ってなかったか?無理しなくても…」
「恥ずかしいけど嫌じゃない!無理してないからオイラもふもふ平気!」
「オイラはもふもふ困りますにゃう!アニキぃぃ!!」
お互いオイラという一人称で騒ぐ状況も面白くて余計に腹を抱えて笑っていたホークアイだったが、ニキータに助けを求められたのでいったんシャルロットの頭を撫でる。
「ごめんなシャルロット、ニキータは恥ずかしいみたいだ…」
「オイラは恥ずかしくても大丈夫!だからオイラをもふもふ!」
「なんでちかケヴィンしゃん、いつもはのりきじゃないのに」
不満を見せるシャルロットに、ホークアイは懐から腕輪を取り出し手渡した。
「うでわ??」
「これは『大地の腕輪』といって、御守りみたいなもんだ……ニキータにヒールライトを唱えてくれたお礼に貰ってくれ」
「きちょうなモノみたいなのにいいんでちか?」
「ああ、レディへの贈り物だからな……それにシャルロットがローラント城で美獣に『おばしゃん』って言ってくれて、ちょっとスカッとしたからそのお礼もかねてな」
ホークアイは物珍しそうに腕輪を眺めているシャルロットに目線合わせるようにかがみ、自分の左手を見せる。
「実は二個持っててさ…ほら、オレとお揃い♪」
「おそろいでちか!じゃあシャルロットもひだりてにつけるでち!」
「アウぅ~……」
「ケヴィン?どうしたんださっきから」
「…………オイラもわかんない、腹へったのかな…」
デュランは慌てたり落ちこんだりと落ち着かないケヴィンの様子を気にして声をかけ……とりあえず宿屋の厨房にお茶菓子をもらいに行くのだった。