第30話『嬉しい気持ちの肩ぐるま』


その後、美獣は逃がしてしまうも…ローラント城は無事に奪還することができた。



そしてアルテナ兵に攻め込まれた時のフォルセナのように城中がバタバタとしていたが、夕方から夜にかけて戦っていた一行はすぐに就寝し……翌朝になるとホークアイはすでに城を立っていた。






「ホークアイもう行っちゃったのか…」


「昨日のうちにリースに話して早朝に出たらしいぞ」




デュランは剣を磨きながら、残念そうにテーブルに突っ伏しているケヴィンに言った。




「きのうたいへんだったんでちから、もうちょっとホークアイしゃんもやすんでいけばいいのに」


「確かに大変だったよな、特におまえが美獣に向かって『おばしゃん、だれ?』っつった時は殺されるかと思ったぜ」


「だってシャルロットはびじうってヒトのかおしらなかったでちもん」


「だからって、おばしゃんはないだろ…アルテナ兵に『ぶす』とか口走って魔法ぶっぱなされたの忘れたのか?」


「そうだフェアリーしゃん!なんでシャルロット、きのうはクラスチェンジできたんでち?」


『…それなんだけど』




シャルロットが話をそらすように話題を変えると、デュランからいつものようにフェアリーが現れる。


『マナストーンの前で念じた時は、なんで強くなりたいのかをシャルロット自身がハッキリわかっていなくて……無意識に自分で鍵をかけちゃってたのかもしれないわ』


「えぇ?シャルロットそんなことしてまちたか??」


『断言はできないけどね…昨日マナストーンが無い場所なのにクラスチェンジできたって事は、そうなんじゃないかしら?』


「つまりクラスチェンジ自体は元々成功してたんだな…」


「なぁんだ!シャルロットやっぱりすごいな!」


「うひひ!もーっとほめていいでちよ♪」





元気になりすぎてるような気もするが……この状態が、シャルロットが持つ本来の明るさなのかもしれない。


これを機にシャルロットもケヴィンも無理して元気に振る舞ったりしなくなってくれればいいと思っていたデュランに、フェアリーが心の中に戻って話しかける。



【デュラン?無理をしてるのはあなたも同じなの、忘れてない?】


(オレのは戦闘中の話だろ?)


【戦いの無理だってしちゃダメよ!そのたびに二人が心配するのよ!?】


(そっ、それを言われると弱いけどさ…)




脳裏をよぎるのは首を掴まれたデュランを目にし、獣化状態でわかりにくかったが一瞬恐怖の表情を浮かべて助けに動いたケヴィン……ヒールライトを懸命に唱え続けながら泣いていたシャルロット…あんな顔はもうさせたくない。




【それにシャルロットが強くなりたいと思ったのは、あなた達を護りたいからよ?】


(え?ヒースを探すためとかじゃないのか?)


【ヒースも光の司祭様も含めて!みんなのことを護りたい、助けたいって必死に念じたら力が解放されてクラスチェンジしたのよ…】




(……そうだったのか)




そこで自分のクラスチェンジを思い出す……デュランは仲間を守る戦いをできるようにとナイトを選んだが、旅に出た時は紅蓮の魔導師に勝つためにクラスチェンジの方法を知りたがっていた。


光の司祭の話では自分はまだ未熟のため、クラスチェンジ出来ないと言われた……それは戦いの経験不足という意味か………それとも…。








【……………それとも…なーに?】


(おまえが頭ん中覗くからやめた)

【えー?いいじゃない別に】

(よくねえ!それより出発の準備だ)




デュランは剣を磨いていた布をしまい、道具袋を広げて荷物の整理を始めた。






【でも本当に、心が未熟って意味だとしたら……成長できたのはあの子達のおかげね】



(…ガッツリ覗いてんじゃねーか)


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