夕刻のローラント城……眠り草の花粉によってナバール兵はあらかた眠ったようだが、城には美獣が放ったのであろう魔物達が徘徊していた。
「なんてことを…!」
「……リース、城の中にアマゾネスの仲間が捕らえられていそうなところはあるかい?案内してくれれば俺がシーフの技術で扉を開けるよ」
「…わかりました、こちらへ」
リースはホークアイとアマゾネス兵を連れて味方の救出を優先し、デュラン一行は敵の将軍を探すために奥へ進んだ。
「花粉がとどかなかったのか?眠ってねえナバール兵もちょこちょこ出てきやがるな…」
「でもニンジャの戦いかた、なんとなくわかる!ホークアイと鍛錬しておいて良かった!」
魔物と一緒に襲ってくるナバール兵は独特の戦闘スタイルだったが…事前に知っていたニンジャの癖と、クラスチェンジしたデュランとケヴィンの息があった動きによって問題なく突破できていた。
(ふたりともすごい……シャルロットのまほう、まだまだよゆうがあるでち)
二人の怪我が減り、シャルロットのヒールライトを使う回数も減ったので魔力を温存できている。
風の回廊を進んでいた時よりあきらかに楽だった。
「お?なんだあれ…装飾にしちゃ悪趣味だな」
奥の部屋に続いているであろう通路の真ん中に悪魔の顔のような門が取り付けられている。
「な、なんだかたべられそうで、こわいでち…」
「見た目凶悪すぎるよな、ここだけローラントの城に合ってなー」
ーゴゥッッ!!!!
突然強風が襲いかかり、三人は後方へ吹き飛ばされた。
「なっ……なんだ今の風!?」
「風、あの顔から出た!!」
『あれはジェノアっていう魔物よ!あそこの通路を塞いでる…きっと奥の部屋に美獣がいるんだわ!』
「ならまた風を出される前にいっきに叩くぞ!」
「うん!シャルロットは下がってて!」
「りょっ、りょーかいでちぃ!」
ジェノアの顔を怖がっているシャルロットを待機させ、デュランとケヴィンは前へ走る。
『二人とも!床に注意して!!』
「「っ!?」」
足元に赤く光る槍が現れ勢いよく突き上がる……デュラン達は間一髪で避けるが、その先にはジェノアが召喚した二体のモンスター。
「風にトラップ能力に召喚魔法かよ……ケヴィン!こいつらはオレが相手をする、おまえは先に…っ!?」
「デュランっ!!」
モンスター達へ斬りかかろうとしたところに炎の魔法が襲う…予想外の攻撃に対処しきれずデュランは膝をついた。
「大丈…ぅわっ!!?」
再び強風が吹き溢れ、二人はモンスター達と一緒に飛ばされる……しかし後ろに控えているシャルロットは、魔法アイテムを手にしていた。
「やっつけてやるでち!ひかりのコイン!!」
コインが発した光魔法の攻撃で消滅させ…すぐにデュランの火傷へ回復魔法を唱える。
「ヒールライトでち!」
「…ありがとな、助かった」
思ったより重傷ではなかったようで1回のヒールライトで治すことができたが、デュランは渋い顔をしていた。
「デュラン、まだ痛いのか?」
「…いや、炎の魔法には嫌な記憶があるだけだ」
『みんなぁ!そこから離れて!!』
休む間も無く炎の魔法攻撃『メルトヴェイグ』が三人のいる場所へ放たれる。
詠唱に気付いたフェアリーが呼び掛けたことで部屋の中央へと移動し回避できたが…そこは罠だらけだ。
「うわわ!あぶないでち!」
「くっそぉ!攻撃しようにもうかつに近寄れねえ…フェアリー!アイツの魔法がとどかないところはないか!?」
体制を立て直すことすら出来なくなるのはまずいと考え、デュランはフェアリーに問いながら罠をかわす。
『部屋の入り口の近くの柱を陰にすれば……でも三人はさすがに…』
「充分だ!シャルロットが待機できればいい!」
「じゃあオイラ、シャルロットそこに運ぶ!」
ケヴィンは罠を避けるのに必死でうまく動けそうにないシャルロットへ手を伸ばす……しかしタイミング悪くジェノアの魔法がケヴィンにかけられた。
「アウぅっ!!…ま、またぁ!!?」
ジェノアが唱えた魔法は『ボディチェンジ』で、ケヴィンの体は小さくされ……シャルロットはすぐに状態異常を治すティンクルレインの詠唱に入ろうとするが、ジェノアの突風に気付いて中断した。
(まにあわないでち……ならシャルロットが!)