「デュラン、行くよ!」
「いいぜ!来い!」
ケヴィンは助走をつけて駆け出し、その勢いのまま盾を構えるデュランへ蹴りをぶつける。
「…っ!!」
「すごい!オイラ思いっきりやったのに…」
「ま、まあな」
【手がしびれかけてるのに強がっちゃって…】
「余計なこと言うな…よし、もう一度だケヴィン!もっと本気で来ていいぞ!」
「わかった!じゃあオイラ本気出す!」
「え?いや獣化はちょっと…!!」
(よなかにたんれんなんて、ノウキンでちねふたりとも…)
シャルロットが目を覚ます頃にはすっかり夜になっていて…デュランとケヴィンは眠りの花畑の上の広場で新しい力に慣れるべく鍛錬中だった。
シャルロットは二人を見つけるもなんとなく声を掛けづらく……下の花畑で川を眺めていた。
(ウェンデルのみずうみにはおよばないでちが…キレイでち)
水面に浮かぶ空の月と星、ウェンデルの湖でも見られる美しい光景だ。
「…ヒース……おじいちゃん…」
「シャルロットちゃん」
「!」
二人の鍛錬を見に行こうとしたのか…もしくは自分も参加しようと思ったのか、槍を手にしたリースがそこにいた。
「シャルロットちゃんは、ウェンデルに帰りたい?」
「………わからない、でち……それにウェンデルにはけっかいが…」
「そこは大丈夫、うちにはメルシーがいるから」
メルシーはボン・ボヤジのいとこ、ちびっこハンマーを探す際も大砲を使ってバイゼルまで送り届けてくれた。
大砲で空から行くのなら結界が張ってある滝の洞窟を通らずともウェンデルに帰れるが……それは一方通行だ。
「…たびをやめるワケにいかないでち」
「なら俺と一緒に来るかい?」
「ホ、ホークアイ!!」
「………なんでリースしゃん、そんなにビックリしてるんでちか?」
「こ、これは、その……いきなり現れたから…!驚いただけです!!」
「おカオがあかいでちが…」
「驚いたせいですっ!!」
シーフなだけあってホークアイは足音をほとんど立てずに歩いていたが、気配を消してはいない……ましてやシャルロットが気付くくらいわりと普通にこちらへ近寄ってきた。
「…シャルロット、どーする?」
ホークアイは何やら慌てているリースに微笑んでから、シャルロットと目線を合わせるように中腰で話を続けた。
「俺なら滝の洞窟以外の道を探せるかもしれない。シャルロットがおじいちゃんに会ってから、ヒース神官を探すためにもう一度旅に出るっていうのなら同行するよ……キミも一緒にどうだ?本当は弟を探しに行きたいんだろ?」
「!!…わ、私は…ローラントを守らないと、ですから…」
リースの弟…エリオット王子は現在行方不明。
ローラントを無事に奪還したら、リースは王女として国に残る……しかし行方不明の弟を探したいという気持ちもあるのだろう。
「……リースは国を背負ってるんだよな…でも、頼りになるアマゾネス達がいるんだ。落ち着いたら相談くらいしてもいいと思うぞ?」
(ローラントのひとたちはリースしゃんがいるとあんしんする…リースしゃんはみんなにおもわれてるステキなおうじょさまでち……シャルロットは?)
自分は誰かにとって、一緒にいてほしいと思われるような重要な存在なのか?
ウェンデルに帰ったとしても自分に出来ることはない、けれどこのままデュラン達の旅についていっても足手まといになる…………それでも…。
「ホークアイしゃん、シャルロットはやっぱり……デュランしゃんたちといっしょにいくでち」
「…それがシャルロットのこたえなんだな?」
「うん、シャルロットがいなくても『まんまるドロップ』とかでじゅーぶんかもしれないけど……デュランしゃんとケヴィンしゃんとのたびは、だいじでち」
「シャルロット本当!?」