第21話『懐かしい街と森』

ちびっこハンマーを入手しバイゼルから出ている船で城塞都市に到着……脱獄の時以来の街、ジャドだ。



「このまえはよくみれなかったでちが、さかえてるところなんでちね」


「城塞都市っつうくらいだからな。あの時のシーフ……ホークアイは元気してっかな」



以前はビースト兵に占領されていたが…光の司祭の結界により聖都ウェンデルへの侵攻を諦めたため、街にはもう獣人の姿は無い。




「……………」


そんなジャドの街を見たケヴィンはホッとしつつも苦しいような複雑な感情が混ざった気持ちになった。

ビースト兵が去り平和が戻ったが、獣人がこの街に嫌われたのは明白だ。



さらに耳がいいケヴィンには住民達がビースト兵の話をしているのが意図してなくとも聴こえてきてしまっていた。



「なあケヴィン。覚えてるか?」


「うん、この街ビースト兵に…」

「この街の道具屋で逢ったんだよな、オレ達」


「ぇ…」


「つい最近のことなのに懐かしいよなぁ」



ビースト兵に見つからないように道具屋の窓からコソコソと外を覗いていたケヴィン。


その後ろ姿を見たデュランは、頭に被っている帽子がラビの尻尾の様だと眺め…気付けば二人は会話をしていた。



「あの時はこうして旅の仲間になるなんて、思わなかったよ」


「…オイラも、あの時はデュランのこと『人間なのに変わったやつ』って思った。けどそうじゃなくて、いいやつ」


「うっ、オレがいいやつっていうのは蒸し返さなくても…」



【素直に喜べばいいのに、デュランって案外シャイよね。照れ屋さんだし】


「シャイでも照れ屋でもねえ!」


「あう?デュラン、シャイで照れ屋??」


「ち、違うっ!フェアリーが勝手に言ってるだけだ!」


「なにしてるんでちか~!はやくいくでち!」



活気のある街に興味を示し、面白そうにしていたシャルロットだったが早々に飽きたのか街の門へ向かおうとデュラン達に呼び掛けた。




【それにしても、純真無垢なケヴィンに『いいやつ』って言われるなんて……デュランを聖剣の勇者に決めた私の選択は間違ってなかったってことよね?】


(なーにが選択だよ、なりゆきで決めたくせに)


【そ、そんなことないわよ…】


(この際しょうがないとか言ってたじゃねえか)


【だけど悪い人間だったら憑かなかったわ。邪悪な心の持ち主かどうかくらい、私にもわかるもの!】


(はいはいっと………そういや、この森でとり憑かれたんだよな)



ラビの森を歩きながら、フェアリーとの出逢いを思い出す。

湖畔の村アストリアの宿に入る際にケヴィンとすれ違い、続けて飛び出してきたシャルロットによって扉にぶつかり…ようやく泊まるも部屋の窓から不思議な光を見て……気になって追いかけたのが始まりだった。



【光の正体がモンスターだったら叩き斬ろうと思ったのね…】


(だ、だから頭ん中を覗くなっつの!)


「シャルロット?前、まえ!!」


ーゴンッ!!

「いったいでち!」


「だ、大丈夫?」


「…どうしたんだ??」


デュランが二人のほうを見るとシャルロットは涙目で額を押さえ、ケヴィンはシャルロットを心配しておろおろしていた。



「そこに変な石像があって、シャルロット気付いてないみたいで歩いてたから……オイラ呼び止めた」


「でもケヴィンが呼んでるのにも気付かなくてぶつかったのか?」


「……ちょっとボーッとしてたでち…っ!」


「触ると余計に痛いから押さえるなって……ほら、赤くなってるぞ」


デュランがシャルロットの手を額から離させ、怪我の具合を確かめると痛々しく腫れあがっていた。


「これくらいヒールライトでカンタンになおるでちよ!」


「いくらすぐに治せても痛いもんは痛いだろ?だから怪我自体しないほうがいいんだ、次は気を付けような?」


「うぅぅ、はいでち…」


【デュランと違って素直ねー、シャルロットは】


(うるさいっての…)

「わわっ!!みんな見て!」


シャルロットがぶつかった石像になんとなく手を伸ばしたケヴィン……するとすぐ側の木々が光り出し、とても小さな道が現れた。


【デュラン、ここでちびっこハンマーを使って進めば!】


「コロボックルの村に行けるってことか………じゃあ、使うぞ?」


「オイラからっ?ちょ、ちょっとまっ-」

ーピコン!


ちびっこハンマーでケヴィンの頭を軽く叩いてみるとボワッと大きな光が発生し……光が小さくなって消えたところに、小さくなったケヴィンだけが残った。


「へー、本当にチビデビルの『ちびっこ風船』と同じ効果なんだな…」


「アウゥゥ……この姿軽くて動きやすいけど…力入らない……そ、それに…」

「デュランしゃん!シャルロットたちもつかってはやくコロボックルのむらにいくでち!」



デュランの脚に隠れながら様子をうかがうケヴィンだったが、シャルロットはチビデビルの時みたいにはしゃぐことなくデュランを促し…すぐに三人ともちびっこ状態になった。



「自分を叩くとハンマーごと小さくなるのか」


【もう一度叩くと元の大きさに戻れるわ、さあ行きましょう!】


(………シャルロット、いつもと違う?)


「おいケヴィン、行くぞー?」


「あ……ウン、行こう!」

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