「わりと普通の婆さんからちびっこハンマーが貰えてラッキーだったけど…想像通りヤバイところだったな」
いくつか旅や戦闘の助けになるアイテムも買うことができたが……ブラックマーケット自体が治安のいい場所とは言えなかった。
詐欺師らしき者や奴隷商人と思われる輩までいる、世間知らずかつ子供っぽいケヴィンシャルロットと別行動をとっていたら二人が危なかった可能性もある。
幽霊に怯えっぱなしのシャルロットがデュランの足にくっついたままだったので何事もなかったが……それでもシャルロットを見て踊り子に勧誘する連中はいた。
ブラックマーケットの中央にはオーロラシスターズという踊り子達のステージがあり、名物でもあるようだ。
しかし見た目が幼いシャルロットを誘うなんて本当にマーケットのダンス商会の人物なのか疑わしい。おそらくダンスチームの名を勝手に使った闇業者…最悪人攫いだろう。
もちろんデュランが子供に何をさせようとしてるんだと睨みをきかせたが…デュラン以上に鋭い眼光をケヴィンが向けることで連中はそそくさと退散した。
【ケヴィンってあんな表情もできるのね…】
(さすが獣人だよな、威圧感がすごかった)
普段のケヴィンからは決して見れない。怒った顔自体は何度か目にしたが…なんなら戦闘中に獣化している時以上に凄みがあった。
「ケ、ケヴィンしゃん、ずっとこわいしてまちが……ユーレーでも…いい、いたんでちかっ?」
「幽霊の匂い…わからない。けど、悪いやつの匂い、多かった」
ブラックマーケットを出てもまだ少し表情が戻らないケヴィンに、シャルロットがおそるおそる声をかける。
「わるいヒトのにおいとか、わかるんでちか?」
「…デュランに逢ってから、いい人間の匂いわかるようになった。だからオイラ、悪いやつの区別できる」
「え?オレ??」
「うん、デュランいいやつ」
「………褒めてくれてんのは、どうもだけど……えっと、そんな険しい顔で言われても…」
「ごめん。さっきシャルロットに寄ってきた人間達、すっごい嫌な匂い…だったから……なかなか顔、戻らない」
「ひょーじょーきんがカタいんでちか?ならデュランしゃん、ちょっとおねがいでち」
「んー?」
こっそりと耳打ちされると、デュランはシャルロットを抱えてケヴィンの側まで近付いた。
「…なんで、デュランに抱っこしてもらってる…の?」
「こうするためでち」
「…ふいっ?!」
シャルロットは表情がこわばっているケヴィンの頬をむにっとつまんだ。
「ほっぺをほぐせば、ひょーじょーもやわらかくなるでち!」
「……ひゃ、ひゃめて、ヒャルロット…」
「およ?ケヴィンしゃんマッチョなのに、かおはプニプニでちねぇ」
「くっ、くすぐったいぃ!」
「……まったく、おまえらは…」
やれやれと二人を見るデュランだが、くすぐったさに笑うケヴィンがいつもの様な顔に戻り…同時に張り詰めていた気も緩んだようなので安心も含めて苦笑するのだった。