(声、こっちから…)
ケヴィンは湖畔の村アストリアへ向かう途中で女の子の泣いている声に気付き、ラビの森の中を探していた。
「うぇーーーん!!」
(あ…みつけた、あの子!)
村から逃げてきて泣いているのか、暗い森で迷子になって泣いているのか…どちらにせよ無事かどうか確認しなければと、ケヴィンは小さな女の子と目線を合わせるためしゃがんで声を掛ける。
「だ…大丈夫?怪我は、ない、か?」
ケヴィンは人間と話し慣れていない、宿屋でこの子と話した時も少々テンパって一人称が『オイラ』から『おれ』になったりした。
「うぅぅ……あんたしゃんは、さっきのしんせつなひと…どうして、ここに?」
「あ…、オイラ、ケヴィン……村が燃えてるの気付いて…森から泣いてる声、聴こえて…」
「むらが、もえてる?シャルロットは、ヒースを……ヘンテコオヤジに…ヒースぅぅ…」
慣れていないのと泣いているのとで二人ともうまく話せなかったが、ひっしにお互いの経緯を説明した。
小さな女の子はシャルロットという名前で、聖都ウェンデルの光の司祭の孫だった。
「オイラ、ウェンデルいくところ……だから、送ってく…泣かないで、くれ…」
「うぅっ……うん…」
なんとか泣き止ませ、シャルロットの手を引いて歩き出す。
「…ヒース……どこいったの…」
ヒースとは聖都ウェンデルの神官で、シャルロットの面倒をよく見てくれた青年。
光の司祭の指示でこの辺りに来ていたヒースを追っていたシャルロットだったが、途中獣人であるビースト兵に襲われ……そこをヒースに助けられるも、ヒースはいきなり現れた謎の男に拐われたらしい。
「シャルロットのせいで…ヒースは…」
「あ…あの……シャル、ロッ-」
「わんっ!」
また泣き出してしまいそうなシャルロットにケヴィンが声を掛けようとした時、茂みから仔犬が顔を出した。
「え?い、いぬ?」
「あ!ポン太でち!」
仔犬はシャルロットのほうへ近付き、クゥンと悲しそうに鳴いた。
「シャルロットはアストリアによくあそびにいったから、ポン太もしってるでち」
「そう、か…」
アストリアで飼われていた仔犬を見て、ケヴィンは親友だったチビウルフのカールを思い出した。
「ケヴィンしゃん、ポン太もいっしょにおくってってほしいでち…もしかしたらウェンデルに、かぞくのひとがにげてるかも…」
「い、いいよ…いっしょに、行こう」
さすがにポン太とカールを間違えたりはしないが…カールはチビウルフなのに犬みたいな鳴き声でよく自分を呼んでいた。
(この仔犬も、カールみたいに家族を失くしちゃうのか……)
先程のシャルロットの話だと、ポン太が家族を失う原因を作ったのは獣人の可能性が高い。
城塞都市ジャドを占領したビースト兵がアストリアを襲った……そしてシャルロットがヘンテコオヤジと呼ぶ謎の男は、おそらく自分の知っている怪しい存在…。
(死を喰らう男………あいつ、何者…?)