第16話『それぞれ気持ちは一緒』



ボン・ボヤジによく似た弟、ボン・ジュールは本人の宣言通りヘマはせずに、兄と違い正確に三人を飛ばした。

自由都市マイア、ボン・ボヤジ宅の裏庭に着地。
石畳は地面より痛いが先日のシャルロットのように急斜面を転がるよりは絶対マシだ。


……なんてことを考えて気が緩んでいたからか、まだ聞かせたくなかった話をシャルロットとケヴィンに聞かせてしまった。




「光の司祭様が不治の病に倒れたって本当?」


「ええ、獣人達から都を護るために命懸けで結界を張ったせいだとか…」


「しかもそれを治せるのは行方不明になってるヒース神官だけなんだとさ」


「聖都ウェンデルはこれからどうなっちゃうのかしらね……」




デュラン達が二日前にマイアへ到着した時に流れていた比較的新しい噂だ、今も話題になっていてもおかしくない…だがこの二人の耳に入れたくなかった。



「デュランしゃんなにへんなカオしてるんでち?」


「……シャルロッー」

「いっておきまちが、おじいちゃんのことはとっくにしってたでちよ」


「…へ?」


「あ!ケヴィンしゃんみてみて!サボテンしゃんでち!」


「えっと…シャイなサボテンくん?」


「そーでち!こんかいはつかまえるんじゃなくておはなしするでち!」


「う、うん!話しかけよう!」





デュランの頭が追いつかないままシャルロットはケヴィンを連れて走り出し…その後もサボテン君に貰ったスタンプ帳をワクワクと眺めながら黄金の街道を進んだ。


そして特にトラブルに合うこともなく、商業都市バイゼルまでたどり着いた。




「えーゆーおーしゃんは、ここからパロのまちにいけっていってまちたね」


「ああ。だが今日はパロ行きの船は出てないらしいぜ?」


「ならもう、じゆうこーどーでいいでちね!シャルロットさきにやどやにいってるでち!」

「お、おう」



自分はどうしようか……ケヴィンを誘って道中で話した手合わせをしてみるのもありかと考える。



「デュラン」


「ん…?」



話があるとケヴィンに言われたので、そのままの流れで二人で買い出しにも行くことにした。




「実は、オイラも知ってた……司祭様のこと」


「…そっか、いつからだ?」


「マイアの街…最初に来たとき。宿屋で留守番して…寝ようとしたら外から噂話、聴こえた」




宿屋にいた客同士の話はデュランが阻止したが、窓の外から聴こえてくる会話まで想定していなかった……獣人の聴力も把握していない。


「多分シャルロットも、マイアに着いてからすぐ知ったんじゃ、ないかな…」


「そういやあいつ、あの時さっさと寝ちまってたな…一度に色々あって本当に疲れてたんだな」


「うん……でもデュランが心配してるのがわかったから、次の日から顔に出さないようにしたんだと思う…オイラも、一緒にそうしてた」



大地の裂け目へ行く途中、フェアリーに注意されるくらい元気にはしゃいでいた二人だったが…あれはあえて明るく振る舞っていたのだ。


(何やってんだオレ……シャルロット達を気遣ってるつもりが、二人に気を遣われてたなんて…)


「だ、だけどオイラ、嬉しかった。心配かけるの良くないけど、デュランはトモダチって言ってくれて…」


「……………」


「シャルロットは獣化したオイラを恐がらないでいてくれた……獣人、司祭様が倒れた原因でもあるのに…」


「獣人とかビースト兵とか関係なく『ケヴィン』として見てるってことだろ、獣化したところでワンちゃんとか言って可愛がるくらいだし」



「あれは……ちょっと恥ずかしかった…シャルロット喜んでるから、我慢したけど」


「ははっ、我慢まですることねえって…嫌なときはそう言っていいんだよ」


「う、ううん…シャルロットにもふもふされるの、嫌ってわけじゃ、ない……」


「あれ?そうなのか?」


「ウン、嫌ではないけど……なんか恥ずかしい、気がする…」



デュランが不思議そうにしていると、頭の中で楽しく笑う声が聴こえた。



(フェアリー?なんかおかしかったか?)


【だってケヴィン、やっぱり照れてたみたいだから…】


(照れてる?なんで?)


【さあ?なんでかしらね♪】


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