洞窟内に獣の咆哮が響き渡る……ビリビリとしたその感覚に剣を握りしめたまま動けないデュランも、ジュエルイーターの舌から解放されたシャルロットも…何が起きたのかわからなかった。
ただわかるのは、目の前のジュエルイーターに重い拳を入れるウェアウルフがいるということ。
「………ケヴィン…?」
呟くように発したデュランの声への返事は無く、代わりに打撃を喰らわす音が休むことなく続いた。
「デュ、デュランしゃんまずいでち!くずれるかも!」
「なっ…!!」
獣化したケヴィンの闘う姿に茫然と立ち尽くしていたデュランだったが、頭上からパラパラと小石が落ちてくることに気付いたシャルロットに呼び掛けられ現実に戻る。
ここはドワーフが採掘しながらしっかり掘った場所ではなく、ジュエルイーターが無造作に空けた穴だ…壁や天井の補強などされていない。
「ケヴィンっ!もうよせ!!」
デュランはジュエルイーターへ攻撃を続けていたケヴィンを羽交い締めにして止める。
「っ!!?」
何故とめるんだと言うかのようにものすごい力で振り払おうとするケヴィン…しかしデュランも力を弱めない。
「これ以上暴れたらここが崩れちまうっ!!それに、そいつもすでに倒せてる!もういいんだ!!」
「あ、ぐ、ううぅぅぅっ!!!」
「落ち着け!!シャルロットもオレも大丈夫だから…おまえもっ、苦しそうにすんな!ケヴィン!!」
デュランから見た今のケヴィンは、怒りに満ちているだけではなく…カールを手にかけてしまった力を思い出して苦痛の表情で戦っているようにも見えていた。
「…………………」
動きをとめたケヴィンは唸り声を上げることもしなくなり……デュランが両腕を離すとその場に膝をつき、体を光らせて獣化を解いた。
「…………ごめん……オイラ…頭、冷えた。もう、平気……」
膝をついたままデュラン達へ振り向いたのはいつものケヴィンだが…どことなく初めてジャドで逢った時のような、無理をしている子供みたいな顔をしていた。
「……なーに謝ってんだ、苦しそうにすんなってさっきも言っただろ?」
「だって、オイラ…」
「ケヴィンしゃん!おんぶでち!!」
「え?」
「シャルロットつかれたんでち、おんぶしてちょ!」
「あ……う、うん…」
ケヴィンはシャルロットに近付こうとしたが、ビクッとしてすぐに足を止める。
「デュランごめん……デュランが、おんぶしてあげて」
「…ああ、オレはかまわないけど」
「デュランしゃんはカミがトゲトゲしてるからイヤでち」
「おい、トゲトゲって…おまえなぁ!」
「チクチクささりそうだもん!だからケヴィンしゃんがいいんでち!!」
「わわっ?!」
シャルロットは構わずケヴィンの背中に飛び乗り、ぎゅうっとしがみつく。
「シャ、シャルロット……オイラのこと、怖くないか?」
「さっきのモグラしゃんのほうがよっぽどこわいでちよ!それに…」
「…?」
「ウェアウルフになったケヴィンしゃん、もふもふさせてほしいでち」
「え、えぇっと……こんど、獣化したら…もふもふっ、するといい…」
【ねえ、ケヴィンったらちょっと照れてない?】
(あれ照れてんのか?もふもふされる事にうろたえてるんじゃねえの?)
【うーん…デュランにはこういう話をしてもつまらないのね…】
(な、なんだよ?意味わかんねぇことで呆れるなっつの!)