湖畔の村アストリアと滝の洞窟への別れ道…そこに立てられている看板をゆっくりと読み上げる少年、ケヴィン。
「えっと…こはんの、村…アストリア……あ!違う、こっちか!」
もうひとつの看板に“滝の洞窟“ と”聖都ウェンデル”の文字を見つけ、嬉々としてそちらに向かう。
「ウェンデル、もうすぐ…待っててカール…」
今はシェイドの刻、真夜中。
ウェンデルへ行くにはこの洞窟を通らなければならない…通常の参拝者ならその日は諦め、アストリアの宿屋に行く時間帯だろう。
(……あの人間…ちゃんと脱出できたかな)
滝の洞窟への道を進みながら、昼間ジャドの道具屋にて出逢った人間の事を思い出した。
(本当に、変わったやつだった…)
ケヴィンは人間と獣人のハーフだが、ほとんど獣人同様に生きてきた。そのため人間に対して苦手意識が強い。
人間だって、きっと自分を受け入れたりしないだろう……そう思っていたのに。
(人間なのに……なんか、違った)
獣人の住む閉鎖的な世界から出てきて不安でしょうがなかった自分に、はじめて普通に接してくれた人間だった……それも獣人だとわかった上で。
(…オイラ人間苦手じゃ、なくなるかも………ん?)
遠くから何か聴こえて思わず足を止める。
耳を澄ましてみると、それは『でちぃぃぃぃぃ!!』という子供の悲鳴のような声だった。
(どこから……っ!!?)
ードシャァァァァァ!!!!!!
聴こえてきたほうへ視線を移すと、声の主と思われるものがケヴィンに向かって降ってきた。
「あぅっ…、なんだなんだ…??」
とっさにぶつかりながら受け止めるも支えきれず、ケヴィン達はゴロゴロとその場に転がった。
「おんなのこっ!?」
気絶してしまっている声の主の正体は子供…しかも小さな女の子。
人間と獣人でどこまで見た目に差が出るのかわからないが、おそらく10歳くらいだろうとケヴィンは思った。
「アウゥゥ……ど、どうしよう…」
前向きに考えていたところだが、やっぱり人間は苦手……しかし自分よりも小さい子供をこのまま放っておくなんてできない。
「……っ?か、軽い…」
女の子を安全な場所へ運ぼうと手を伸ばすと予想以上に軽く、ヒョイっと簡単に持ち上がる。
故郷のビーストキングダムで、ケヴィンになついている獣人の子供達だってもう少し重かったが………まるで人間の子供は、獣人とは違い弱々しくて脆い存在だと突きつけられたような気持ちになった。
(……さっきの場所、村あった…)
ケヴィンは女の子をしっかり抱えて、先程は寄らなかった湖畔の村『アストリア』へと急いだ。