第17話『伝説のおとぎ話』


商業都市バイゼルに到着した翌日、デュラン達は船に乗り込み漁港パロを目指す。



【これから行く漁港パロって、ローラント山岳地帯の方にあるのよね?】


(ああ、どんなところか楽しみだな)



デュランは心の中でフェアリーと会話をしながら、自分達が泊まっている客室に入った。




「ケヴィン、水もらってきたぞ!」



「うぅぅ……ありがと…」


『大丈夫?起き上がれそう?』


「…なんとか」


「ほら、無理すんな」



バイゼルでの人の多さと揺れる船旅により、ケヴィンは人酔いと船酔いが合わさって体調を崩していた。

フェアリーが微力ながらケヴィンの腕を掴み、デュランも背中を支えて起こすのを手伝う。




「オイラ、船苦手……みんなよくへーきだな…」


『私は飛んでいるぶん揺れとか感じないもの…それにもし具合が悪くなってもデュランがいるから大丈夫!』

「おいコラ、オレに移す気か」


『いつも通りデュランに入って休むっていう意味よ、そのためにとり憑いたんだから』


「…とり憑いたってハッキリ言ったな」


「デュランとフェアリー、今日も仲良いなぁ」



もはや悪霊の類ではないかとデュランは言いたくなったが…眉毛を下げたままヘラッと元気無さげに笑うケヴィンを見たら、そんなことで騒ぐ気にならなかった。



「…船酔いに直接効く訳じゃないけど、シャルロットにヒールライトかけてもらうか?体力だけでも回復できるだろ」


「ん、だいじょぶ。さっきもしてもらったから」


『そういえばシャルロットは?この部屋にいるかと思ったのに』


「なんかやることがあるって…外行った」



船の甲板にでもいるのだろうか?


迷子になってるんじゃないかと思ったデュランが探しに行こうか考えているとバタバタと足音が聴こえ、嬉々とした声とともに部屋の扉が開かれた。



「うまくいったでちよー!シャルロットはてんさいでちぃ♪」


「おいおい、あんまり騒がしくす―」

『いや〜!シャルロットさん頑張りましたもんね~!ボク感動したッスよ!!!』


「あぁ、もっとうるせぇのが出た…」

デュランさん、ちぃーッス!』




ニコニコと上機嫌で部屋を浮遊する光の精霊ウィル・オ・ウィスプに軽く眩暈をおぼえる…なんなら本当に目がチカチカしそうだった。



『シャルロット、何がうまくいったの?』


「よくぞきいてくだちゃいまちた!さあ、みるでち!」



シャルロットは上半身だけ起こして水を飲んでいるケヴィンに近付き両手をかざした。



「シャ、シャルロット?ヒールライトならもう…」


「ティンクルレイン!」



シャルロットの手から見慣れたヒールライトとは違う、別の癒しの光が溢れた。


「アウっ!??」


『さあさあケヴィンさん!気分はどうッスか?』


「う…?………気持ち悪いの、消えた…」


「シャルロットのあたらしいまほーがきいたでち!」



シャルロットがケヴィンに唱えたのは毒などの状態異常を打ち消す魔法『ティンクルレイン』だった。



「す、すごい……シャルロットありがとう!」


「へっへーん!どういたしまちて!」


『ティンクルレインって船酔いまで治せちゃうのね、それともシャルロットの魔力が強いからかしら?』


『これを習得する為に毎日練習してたから魔法そのものの力が上がったのかもしれないッスね~!』


「じゃあウィスプはシャルロットの魔法の修行をみてやってたのか、良いとこあるんだな」


『も~っ!!!デュランさんってば、褒めてもなんにも出ないッスよ~!!』



普通に褒められて嬉しかったのかウィスプは部屋全体を照らすほど発光し、結局デュランに『眩しいからもう戻っていいぞ』と言われテンションの高いまま引っ込んだ。



「あ、そうだ。新しい魔法を覚えたシャルロットに祝いの品…って言うほどのもんじゃねえけど、ほら!」


「え?なんでち?」



デュランが荷物から取り出したのはバイゼルで購入した緑色の小さいサイズの服…シャルロットへの装備品だった。


「シャルロットにくれるんでちか??」


「おまえの服ボロボロになってきたからな。その服は動きやすいし寒さ対策もできてる、そのうえしっかり防御性能もあるローブだぞ?ケヴィンと一緒に買ったんだ」


「うん、シャルロットにぴったりだと思って選んだ『ポポイのおさがり』って名前の服!」



酔いが治って動けるようになったケヴィンが新しいローブを手にとってシャルロットに合わせてみると、やはり丈もちょうどよさげだった。


『良かったわねシャルロット!とっても似合うわ…でも変わった名前の服ね?』


「なんだフェアリー知らないのか?ポポイっていうのは勇者の仲間だぞ。この服はそれをモチーフに…」

『えぇっ!!勇者って聖剣の勇者!?』


「い、いやおとぎ話の勇者な!聖剣の勇者だったのかはわからねえけど……どっかの世界にいた勇者の仲間の一人が『ポポイ』って子供なんだ、妖精族だったらしいぜ」


「だからシャルロットにぴったり!!聖剣の勇者のデュランと一緒に旅してる子供……あっ!」



また子供扱いしてしまったと気付き、ケヴィンは慌てて口を両手で隠す…だがシャルロットは怒ったりせずに受け取った服を大事そうに持って笑った。


「えへへ……みなしゃん、ありがとでち!」